遺言は相続人間の争いを防ぐための相続対策の基本となりますが、作り方によっては遺言が無効になったり、配慮を欠いた遺言により相続人間の紛争を招いたり、逆効果になることもあります。また、財産が少ないので遺言は必要ないと考え遺言を残さない、あるいは、法定相続人を勘違いし、そもそも遺言は必要ないと考えて遺言を残さないという失敗をすることもあります。ここでは、遺言にまつわる失敗例を見ていき、適切な遺言を残すための参考になれば幸いです。

 

1 失敗例を見てみましょう

Aさんと妻Bさんには子がいません。Aさんの両親はすでに亡くなっています。Aさんには母親の違う兄Cがいますが、交流がなく、すでに亡くなっています。兄Cには子がいるかどうかは付き合いがないため知りません。

Aさんは、交流のない兄Cの存在を思い出すことがなく、自分が亡くなっても相続人は妻Bだけで特に問題はないと考え、遺言を残しませんでした。

ところが、Aさんが亡くなって法定相続人を調査したところ、兄Cには子Dがいて、Dも法定相続人であることがわかりました。妻Bさんは、全く付き合いのないDさんと遺産分割協議をしなければ、不動産の名義変更や預貯金を解約することができません。自分で話し合うことができない場合には、弁護士にお願いして話し合いをしたり、家庭裁判所で調停の申立てをしたりしなければなりません。財産がわずかな預金と居住用の不動産しかない場合には、不動産を売却しなければならなくなることがあります。預貯金があったとしても、家を残すために、今後の生活費にあてるはずだった預貯金のすべてをDさんへ支払う必要がある場合もあります。

 

2 生前にどのような対応が必要だったのでしょうか?

自分に子がいない場合、法定相続人を知るためには、両親が生まれた頃まで戸籍をさかのぼり、兄弟がいないか、その兄弟が亡くなっている場合には、兄弟に子がいないかを調べる必要がありますが、かなり大変な作業になります。自分の両親であっても、再婚かどうか知らないケースもあり、全く知らない兄弟がいる可能性もあります。そこで、本事例においては、妻Bの生活を守りたい場合には、Aさんは生前に「すべての財産を妻Bに相続させる。」旨の遺言書を作成しておくことが必要になります。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書があれば、妻Bがすべての財産を相続することができます。

 

3 ポイント

子がいない場合には、必ず遺言書を作成しよう。